研究課題/領域番号 |
10450039
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浜 広幸 東北大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (70198795)
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研究分担者 |
田中 均 高輝度光科学研究センター, 放射光研究所, 主幹研究員
江田 茂 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 助手 (50311189)
神藤 勝啓 東北大学, 大学院・理学研究科, 助手 (80322999)
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キーワード | 電子蓄積リング / 自由電子レーザー / 縦方向フィードバック / 位相検出 / 2色実験 |
研究概要 |
蓄積リングを用いた自由電子レーザー(FEL)の安定な発振に対して最も重要な因子である電子バンチとFELパルスの同期性を、高精度で維持するための縦方向フィードバックシステムをほぼ完成することができた。これは両者の時間差を直接測定するものでなく、時間信号のフーリエ成分の位相検出を周波数領域で行うこれまでにない新しい手法であり、非常に精度が高いシステムを達成した。数学的な解析により、この方法で得られる時間差は各々のパルスの重心であることが分かり、従って突発的な同期の乱れに対してもフィードバックが暴走することがあり得ない安定したものであることが確かめられた。蓄積リングの電子バンチはポテンシャル井戸歪み効果やマイクロ波不安定性で非対称な電子分布を持つが、これに対してシステムはほぼ電子密度のピーク位置を観測しているため、ビーム電流に依存する電子バンチの時間的な移動に対しても合理的に追従できる。このフィードバックシステムによって非常に安定したFEK発振を長時間に渡って維持できるようになり、またFEL出力も最大値を保持できるようになった。これによりFELの出力限界を様々な条件で観測できるようになり、理論計算と比較することが可能になった。その結果、これまで詳しく研究されていなかった電子バンチのエネルギー撹乱とFEL出力の関係が実験的に明らかになってきた。しかしながら、理論計算から求められた電子バンチのエネルギー広がりととFEL出力の関係と実験データは有為に一致していないことが結論として導かれてきている。これについては理論計算で用いたモデルの近似に重大な問題を孕んでいる可能性がある。更に実験データ解析を深め、理論モデルの修正を行っていく課題が残された。 安定FEL発振の達成とともに、光共振器用反射鏡の最適化も進めることができ、可視波長ではあるが蓄積リングFELとしては世界最高出力である500mW以上を取り出すことに成功した。これによって、分子科学分野への応用研究として放射光とFELの同期を利用した2光子吸収による気体の電子構造の研究をテスト的に始めることができた。これは蓄積リングFELの現実的な応用として今後の進展に期待するものである。
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