研究概要 |
本研究は,混合潤滑状態における潤滑膜分子と表面のナノ粗さ構造の相互作用を解明することを目的としており,初年度は超薄膜光干渉法による実験の準備段階として以下を実施した.第一に,バッチ式スパッタリング装置を用いて,ガラス円板試験片(基板)に2層スパッタ膜を形成する方法の検討を行った.主としてクロムと二酸化ケイ素について検討を行った結果,放電電圧,基板温度,ガス圧力,スパッタ時間,逆スパッタ条件,基板の表面仕上げ及び洗浄条件などの成膜条件によって,膜厚ならびに膜の強度,密着強度が異なることがわかった.膜の強度は,既存の往復動試験機を用いて基板と鋼球を摺動させることにより調べた.また,触針式粗さ計及び原子間力顕微鏡を用いて表面粗さを測定し,粗さのフラクタル構造を調べた.基礎的なスパッタ特性を把握するために時間を要したため,当初の目標であった成膜条件とナノスケールの粗さ構造との関係を整理するまでには至っていない.第二に,超薄膜光干渉実験装置の設計と製作を行い,膜厚測定の部分をほぼ完成させた.プログラム開発において,上で作成した2層膜付き基板を用いた静的点接触実験を行った.第三に,種々の鉱油と合成潤滑油について,鋼同士の往復動滑り実験を行い,混合潤滑状態においては油の分子構造の違いにより潤滑状態が著しく異なることを明らかにした.粘度圧力係数αで整理すると,摩擦係数はαが高いほど高くなる傾向があるが,潤滑膜形成状態は必ずしもαと相関がなく,αが低い油では分子の極性による吸着膜の効果が見られ,αが高い油では高圧での固化膜が作用していることが予想された.このような分子の吸着と薄膜状態での相変化の,潤滑膜のせん断特性との関係を理論面から説明するために,連続体力学と分子力学の両面から解析の適用可能性についての検討を行った.以上を踏まえて,次年度に実験と解析を推進する予定である.
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