研究概要 |
本研究は,混合潤滑状態における潤滑膜分子と摺動表面のナノメートルオーダーの粗さ構造との相互作用を解明することを目的としており,2年目の今年度は前年度に行った諸準備に基づき以下の成果を得た. 1.バッチ式スパッタリング装置によってガラス円板試験片にクロムとシリカの2層コーティング膜をスパッタする際の成膜条件と形成されるナノ粗さ構造との関係を整理した.スパッタリングの諸成膜条件はいずれも粗さに影響を及ぼすが,特に放電エネルギーと自乗平均粗さ及びフラクタル次元との間には明確な相関関係があることを見出した.また,逆スパッタリングによる表面層の除去が少なからず影響することがわかった. 2.スパッタによる表面形成について,拡散を伴う分子付着モデルを考案して数値シミュレーションを行い,上述の成膜条件と粗さとの関係を説明した. 3.超薄膜光干渉装置を完成させ,円板試験片の回転速度を任意に制御しながら膜厚測定を行うことを可能とした.また相手面の球面にも2層コーティング膜を施し,両面の粗さをコントロールした滑り実験を実現した. 4.この装置を用いて,数種類の鉱油ならびに合成潤滑油について転がり及び滑りにおける膜厚測定を行い,ナノメートルオーダーの粗さが混合潤滑膜厚に影響を及ぼすことを示唆する結果を得た.しかし,潤滑油分子の構造と境界潤滑膜の形成との関係については明確な結果は得られていない. 5.ナノ粗さへの極性分子の吸着過程,及びせん断場でのレオロジー特性を理論的に解明するために分子動力学による数値解析を検討し,潤滑油への適用の準備段階として単原子液体についての計算プログラムを開発した. 6.蛍光顕微鏡による潤滑薄膜の観察において,30nmまでの膜厚測定を可能にする手法を開発した.
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