研究概要 |
本研究は,混合潤滑状態における潤滑膜分子と摺動表面のナノメートルオーダーの粗さ構造との相互作用を解明することを目的としており,3年目の今年度は前年度の研究をさらに発展させて以下の成果を得た. 1.バッチ式スパッタリング装置によってガラス円板試験片にクロムとシリカの2層コーティング膜をスパッタする際の成膜条件と形成されるナノ粗さ構造との関係を整理した.昨年度検討した放電エネルギーのほかに,基板温度と雰囲気圧力による粗さの変化について詳細に調べ,単なる粗さの大小だけでなく構造の著しく異なる等方性粗さを作成することを可能にした. 2.スパッタによる表面形成について,表面拡散とスパッタ粒子の入射角度の分布を考慮に入れた分子付着モデルを開発し,数値シミュレーションによって上述の成膜条件と粗さとの関係を説明した. 3.シリカ表面上での接触角測定ならびに液膜の濡れの計測を行い,表面における液膜の拡大が液体の分子構造とナノ粗さ構造によって影響を受けることを見出した.概して極性分子は粗さの小さい面ほど拡がりやすく,非極性分子は粗さの大きな面ほど拡がりやすい. 4.超薄膜光干渉装置を用いて,数種類の有機液体について転がり及び滑りにおける膜厚測定を行い,厚さ数十ナノメートル以下の潤滑膜形成におけるナノ粗さ構造の影響が,液体分子の大きさと構造によって異なることを見出した.極性分子では粗さが小さい表面において多層吸着膜をつくりやすく,非極性分子ではナノ薄膜の形成は表面粗さが小さいほど劣る. 5.簡単な構造をもつ液体分子の吸着・濡れの挙動について分子動力学による数値解析を行い,表面粗さの構造の違いが液体の拡がりに及ぼす影響を示唆する結果を得た.
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