研究概要 |
多原子イオンビームは、原子や分子と異なり塊状の原子集団(クラスター)のイオンビームであるため、固体表面に照射.衝突させた場合、原子状、分子状イオンビームでは得られない特異な効果、すなわち多体衝突効果.高密度照射効果が顕著である。 本研究では、炭素原子の多原子集合体(フラーレン:C_<60>)を蒸着しながらArの多原子ビーム(クラスター)を最大10kVに加速して固体表面に室温で照射し、多原子イオンビームと固体表面との相互作用の解明を行うとともに、超安定・超硬度被膜を形成する新しい薄膜形成を行った。その結果、ビッカース硬度が5,000kg/mm^2の高硬度で水素を含有していない硬質炭素薄膜の形成に成功した。現在、製紙・印刷用ロールの表面処理に用いられている湿式メッキによるクロム薄膜では、ビッカース硬度は約1,000kg/mm^2で、さらなる硬度の改善が求められている。また、従来の単原子イオンビームやプラズマ法によって作製した炭素薄膜の場合、ビッカース硬度は約3,000kg/mm^2である。本研究では、高エネルギー加速した多原子イオンビームを照射することにより、照射時の超高温加熱作用、超高圧効果によって超硬材料の低温形成が可能となった。また、作製した硬質炭素被膜は、耐摩擦、耐摩耗性にも優れた特性を示すことが分かった。 多原子イオンビームと固体表面との相互作用については、分子動力学法による計算機シミュレーションを行い、フラーレンやArクラスターイオン照射による非線形照射作用を明らかにした。実験的にも二次電子、二次イオンの放出比の測定等から、クラスターイオン照射特有の多体衝突効果や非線形照射効果を明らかにし、硬質炭素薄膜の形成がこれらの照射効果によることを明らかにした。
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