Si(001)への極低エネルギーイオン注入における非晶質層の形成過程を、高分解能RBS法にイオンチャネリング法を援用して調べた。その結果、非晶質化が高エネルギーイオン注入時とは異なり、表面から進行していることが明らかになった。この原因として、(1)イオン注入で形成された格子欠陥が表面に移動した。(2)表面に存在する自然酸化膜中の酸素原子のシリコン結晶中へのはじき出しの効果。(3)イオン照射時に生成する欠陥分布を計算するのに広く使用されているTRIMコードが、極低エネルギーイオン注入に対しては正確でない可能性等が考えられる。さらに、これらのうちのどれが原因であるのかを確かめるために、自然酸化膜を有するSi(001)結晶と自然酸化膜の無いSi(001)結晶に、高分解能RBS装置の散乱槽内で3-5keVのAr^+イオンを注入して、非晶質化過程を調べた。これにより自然酸化膜の有無が非晶質化過程に与える影響を評価した。また、注入したArの深さ分布を高分解能RBS法で測定して、TRIMコードを用いた計算結果と比較することにすることにより、極低エネルギーイオン注入に対するTRIMコードの信憑性を調べた。研究の結果、自然酸化膜の有無にかかわらず、非晶質化は表面から進行することがわかった。また、注入されたArはTRIMコードで計算した深さよりも少し浅い位置に存在しており、極低エネルギーイオン注入に対しては、TRIMコードの計算に問題があることがわかった。TRIMコードはイオン注入をはじめ多くの研究に広く用いられており、極低エネルギーイオンに対しては飛程を20-30%程度過大評価することは注意が必要である。
|