研究概要 |
活性汚泥中のウイルスは,細菌が創出するバイオポリマーに吸着された形で汚泥フロック中に捕捉されている。このバイオポリマーによるウイルス吸着は非常に強固であり,抗原抗体反応のようなタンパク質間相互作用が深く関与しているものと考えられる。本研究では,ウイルス吸着という機能性を有したタンパク質系バイオポリマーを活性汚泥中から検索し,その性質を調べることを目的とし,最終的には,その機能性バイオポリマーを人工的に創出し,ウイルスに対する選択的な吸着剤として水処理に利用することを目指す。 昨年度は,汚泥中の細菌細胞外タンパク質を凍結融解や有機溶媒(1-ブタノール),超音波処理により抽出し,各種クロマトグラフィーにより抽出タンパク質の分子量分画およびイオン強度分画を得た。これに引き続いて本年度は,抽出タンパク質をアフィニティクロマトグラフィー(HiTrap NHS-activated)に注入することで,ウイルスと特に親和性の高いタンパク質(ウイルス吸着タンパク質)を分離した。このとき,アフィニティークロマトグラフィーカラムのリガンドには,ポリオウイルスI型の表面を覆うカプシドタンパク質のうち特にウイルス表面から突出し,ウイルスと細胞との抗原抗体反応に強く関与しているペブチド配列(VPIの93から104まで)を人工的に合成したものを固定した。したがって,ここで分離されたウイルス吸着タンパク質は,ウイルスの表面カプシドタンパク質と極めて特異的に吸着するタンパク質とみなすことができる。このタンパク質間の特異的結合による実際のウイルス粒子の吸着能力は,弱毒ポリオウイルスI型(ワクチン株)を用いたELISA法により確認された。また,SDS-PAGE(SE260 Mighty Small II)による電気泳動の結果から,ウイルス吸着タンパク質の分子量は10万Da程度であることが明らかとなった。
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