研究概要 |
活性汚泥中の病原ウイルスの大部分は,汚泥フロックに吸着された形態で存在する。この汚泥フロックによるウイルス吸着には,汚泥細菌が産出するタンパク質系のバイオポリマーが深く関与していると考えられている。病原ウイルスの表面はカプシドタンパク質によって構成されているため,汚泥フロックによるウイルス吸着はタンパク質問の相互作用に起因している可能性が高い。この吸着機構を応用した水環境からの新規な病原ウイルスの除去技術開発の手掛かりとして,ウイルス吸着能力を有する機能性バイオポリマーを活性汚泥中から検索し,その諸性質を解明することを目的として本研究は行われた。 昨年度までに,活性汚泥中細菌を好気培養させた培養液から,細菌外膜上のタンパク質だけを有機溶媒(N-ブタノール)または界面活性剤(chaps)により抽出した後,アフィニティクロマトグラフィの技術を利用して,この抽出タンパク質の中からポリオウイルスI型と親和性の高いタンパク質(ウイルス吸着タンパク質)だけを分離するに至った。本年度は,このウイルス吸着タンパク質について,サイズエクスクルーションクロマトグラフィとSDS-PAGEによる分子量分布の推定を行い,ウイルス吸着タンパク質は分子量110KDa程度のグループおよび170kDaを超えるグループに大別した。これらのウイルス吸着タンパク質に対して,実際のポリオウイルスI型(ワクチン株)を用いたウイルス吸着試験を行ったところ,活性汚泥から抽出された雑多なタンパク質群に比べ,2倍以上もウイルス吸着性能に優れていることが分かった。また,陰イオン交換クロマトグラフィによる等電点推定の結果,ウイルス吸着タンパク質によるポリオウイルスI型の吸着は,静電的な結合力によるものではなく,疎水性結合力や水素結合力が組合わさったタンパク質問の特異的な相互作用に起因することが明らかとなった。
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