百年前に考案されたシャルピー衝撃試験は工業的試験方法として普及しているにも関わらず、実構造物の破壊性能との定量的な関係が今まで明らかにされていなかった。むしろ、破壊力学的な観点から、両者には寸法・載荷速度・ノッチ形状について理論的相関がないため、シャルピー衝撃試験の結果を実構造物の破壊性能の評価に用いるのは無理であるという見解が一般化していた。ところが、今回の研究により、シャルピー衝撃試験片の破面形態は、実大鉄骨の脆性破面の形態と酷似しており、しかも破壊の進行プロセスが、ひずみ集中部における延性き裂の発生、成長、脆性破壊への転化という3段階の共通の現象から構成されていることがレーザー顕微鏡による表面形状測定により確認された。 さらに、シャルピー衝撃試験を可変速で実施して得られた荷重一変形関係を3次元有限要素解析結果と比較することによって、ノッチ先端の応力とひずみの進行過程が明らかになり、き裂の発生条件と脆性破壊への転化条件が明かとなった。これを実大鉄骨の破壊実験結果と比較することにより、両者の破壊条件が、寸法とひずみ速度を温度に換算する方法により、共通に表示できることが明かとなった。まだ、実験データが十分とは言えない面はあるが、シャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーを基に、実大鉄骨の脆性破断までの塑性耐力上昇と変形能力を予測することがある程度可能となった。 建築鉄骨では、個々の建物に供給される鋼材のロットが船舶や橋梁などに比べると小さく分散しているので、工業的に簡便なシャルピー衝撃試験による材料靱性値を鉄骨構造物の破壊性能の評価に直接利用することが肝要であることから、この研究の成果は実用面でも意義が大きいと考えられる。
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