研究概要 |
本年度は,特性X線を利用して構成元素の格子サイト占有傾向を分析するアルケミ法(atom location by channelling enhanced electron microanalysis;ALCHEMI)の測定精度に関する研究を行った。対象とした材料はB2規則状態を有するTi-Al-Mo3元合金である。本合金は規則格子反射の結晶構造因子がきわめて小さいにもかかわらず,電子回折では動力学的回折効果のために規則格子反射が観測される。したがって,X線や中性子回折による解析がほとんど不可能なB2型Ti-Al一MO合金に対しても,アルケミ法は有効である。しかしながら,微弱な規則格子反射の消衰距離はきわめて大きいことから,格子サイト(面)での電子のチャネリングは試料の厚い領域で起こることが考えられる。そのため,チャネリング電子によって各元素から発生する特性X線の強度は,試料深さや吸収の影響を強く受けることが予想され,アルケミ法の測定精度に疑問が生ずる。そこで,結晶内部での電子線強度分布や特性X線の発生プロセスを厳密に考慮したアルケミ実験の計算機シミュレーションを行い,測定精度に及ぼす種々の影響について検討した。計算では,17波を考慮した多波動力学的回折理論により,結晶内部での電子線強度分布を求めた。各元素からの特性X線の発生効率や試料による吸収の効果を取り入れ,検出される特性X線強度を算出した。B2構造のβサイトをTi,αサイトをAlとMoが1対1で占有したTi_<50>(Al_<25>Mo_<25>)合金を想定した解析の結果,膜厚が100nm以下ではアルケミ法の測定精度は著しく低下すること,結晶ポテンシャルの低い格子サイト(ここではβ(Ti)サイト)に電子が強いチャネリングを起こすように回折条件を設定することで測定精度が向上することが明らかとなった。
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