研究概要 |
本年度は,B2規則構造を有するAl合金のアルケミ(atom location by channelling enhanced electron microanalysis;ALCHEMI)実験に及ぼす諸因子の影響を計算機シミュレーションにより解析した。AlやO(酸素)等の軽元素を含む合金や化合物の場合には,原子面または原子コラムに局在化していない入射電子による特性X線の発生率が高く(delocalization効果),これがアルケミの分析値に著しい影響を及ぼすことが報告されている。原子配列の精密解析を行うためには,これらの影響の大小を定量的に評価する必要がある。計算機シミュレーションでは,弾性散乱電子と非弾性散乱電子からなる結晶内部での入射電子強度分布を多波動力学的回折理論により求め,delocalization効果と試料によるX線の吸収効果を考慮して,検出される各特性X線強度を産出した。作成したシミュレーションプログラムはB2型Fe_<50>Al_<45>X_5合金のアルケミ実験(Anderson:Acta Mater.,45(1997),3897)における特性X線強度の回折条件依存性をよく再現することがわかり,モデルの妥当性が示された。解析の結果,delocalization効果の影響は回折条件により大きく異なることがわかった。例えば,B2規則格子反射であるhkl=100への励起誤差が正となる回折条件では,ALCHEMIの分析値は真の原子配列から大きく異なる値を示すのに対し,励起誤差が負でその絶対値が大きいときにはdelocalization効果は無視できる程度にまで小さくなった。本結果は,実験条件の最適化がdelocalization効果の影響の低減化に有効であることを示している。ただし,このようなdelocalization効果の影響は合金の規則度や規則格子反射の構造因子に依存することが判明し、合金系によって異なる実験・解析方法を選択する必要があることが示唆された。
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