広範な多成分系材料に適用できる新しい局所構造解析法の確立

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10450234
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 沖 憲典 九州大学, 大学院・総合理工学研究院, 教授 (70037860)
• 研究分担者: 波多 聰 九州大学, 大学院・総合理工学研究院, 助手 (60264107) ; 板倉 賢 九州大学, 大学院・総合理工学研究院, 助教授 (20203078) ; 桑野 範之 九州大学, 先端科学技術共同研究センター, 教授 (50038022)
• キーワード: B2型規則構造 / Ti-Al-Mo合金 / アルケミ(ALCHEMI) / チャネリング(channelling) / 特性X線強度 / X線の吸収 / 電子線入射方向 / 計算機シミュレーション

研究概要

本年度は,B2型Ti_<50>Al_<25>Mo_<25>合金についてアルケミ(atom location by channelling-enhanced microanalysis;ALCHEMI)を中心とする実験と理論計算の両面から原子配列を解析した。この合金は軽元素(Al)と重元素(Ti、Mo)からなり、特性X線の発生に寄与する内殻電子の空間分布は各元素で大きく異なる。しかも、規則格子反射の構造因子の値がきわめて小さいために、入射電子のチャネリングによる特性X線の発生は試料深部で起こり、発生したX線の多くが試料に吸収される。以上の理由から、従来のアルケミによる原子配列の評価は困難と予想される。解析の結果、本合金のアルケミ実験では特性X線強度の測定条件の最適化が不可欠なこと、従来の菊池線交差法や等厚干渉縞法では構造因子の測定が困難なことが明らかとなった。そこで、規則格子反射のBragg条件からのずれが負となる回折条件でのアルケミ実験、ならびに電子回折強度の定量測定とその動力学的シミュレーションを行い、本合金の原子配列を決定した。しかしながら、特性X線強度の計算機シミュレーションにより実験結果を検証したところ、決定された原子配列には20〜30%程度の誤差が含まれ、定量性にきわめて乏しいことが示唆された。この問題の打開策として、回折条件や試料膜厚の影響を強く受ける特性X線の特徴を逆に利用した「改良型アルケミ」を試みた。具体的には、規則格子反射のBragg条件近傍で電子線の入射方向を連続的に変えながら特性X線を測定すると共に、分析領域の組成と膜厚を測定する。次に、計算機シミュレーションを用いて、特性X線強度の電子線入射方向依存性を最も忠実に再現するように各元素の副格子占有傾向を最適化し、分析領域の原子配列を決定する。解析の結果、B2型Ti_<50>Al_<25>Mo_<25>合金に対して、従来のアルケミよりも高精度の原子配列の評価が可能であることが明らかとなった。今後、特性X線強度の計算機シミュレーションに改良を加え、実験データの再現性を高めることで、「改良型アルケミ」が元素種や構造因子の値に関係なく多成分系材料の局所構造を定量評価できる新しい手法となり得ることを提案した。

研究成果

• [文献書誌] S.Hata,D.Shindo,T.Mitate,N.Kuwano,S.Matsumura,K.Oki: "HRTEM image contrast of short range order in Ni_4 Mo"Micron. 31・5. 533-538 (2000)
• [文献書誌] N.Chiwata,T.Sakai,A.Matsumoto,N.Kuwano,K.Oki: "Ordering process of Cu_3 Pt from short-range order state studied by in-situ TEM observation"Micron. 31・5. 539-542 (2000)
• [文献書誌] S.Hata,T.Mitate,D.Shindo,N.Kuwano,S.Matsumura,K.Oki: "Influences of observing conditions on HRTEM images of short range ordered alloys"Proc.7th Asia-Pacific Electron Microscopy Conf.(7APEM). 1. 106-107 (2000)
• [文献書誌] N.Kuwano,S.Hata,K.Imamizu,Y.Fujimoto and K.Oki: "Computer simulation of ALCHEMI for B2-ordered aluminides"Proc.7th Asia-Pacific Electron Microscopy Conf.(7APEM). 1. 215-216 (2000)