研究概要 |
近年、麻痺した四肢の筋肉を電気刺激で駆動するFES(機能的電気刺激)という技術が臨床応用されている。FES電極には、機械的強度が高く疲労や腐食による劣化が生じ難い事、ニッケル等の人体に悪影響を及ぼす成分の溶出が少ない事、またMRI等の検査のため、磁性を有さない事など、種々の特性が要求される。 本研究では、ステンレス合金の成分と特性のデータベースを整備し、そのデータに基き新しいFES電極用材料NAS106Nを開発した。NAS106Nは窒素を固溶させる事で非磁性のオーステナイト相の安定を保ちつつ、ニッケル濃度を低減したFe-Cr-Ni-Mn-Mo-N系ステンレス鋼である。 また、従来FES電極に使用されているSUS316Lステンレス鋼、Co-Cr-Ni-MO系合金であるNAS604PH,さらに今回開発したNAS106Nの三種類の合金を極細線に加工し、FES電極用の縒り線を作製し、これらの電極線について、大気中ならびに生理食塩水中での疲労特性を調査した。生理食塩水中での疲労試験においては、イオンクロマトグラフィーにより合金成分の溶出量を同時に測定した。 三種類の材料で作製したFES用ワイヤに対して、室温の大気中、ならびに37℃の0.9%生理食塩水中で回転曲げ疲労試験を行なった結果、大気中の試験における疲労耐性はNAS106N,NAS604PH,SUS316Lの順に優れ、また、生理食塩水中の試験ではNAS106N,SUS316L,NAS604PHの順である事がわかった。 新規に開発された材料であるNAS106Nは、大気中ならびに生理食塩水中のいずれの条件においても疲労特性に優れており、また、他の材料に比べてアレルギー等の原因となるNiの溶出量も少なく、またMRI検査等で問題となる強磁性も有さない事から、FES電極用の材料として極めて優れていると考えられる。
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