初年度(平成10年度)に展開した"非線形"粘弾性挙動、特に母相の"べき乗則クリープ"に対する応力指数(n値)がn=3のケースに関する理論予測を実験的に検証することを本最終年度(平成11年度)の重点課題とし、粉体焼結・熱間押出プロセスで作製されたSiC粒子強化606lAl係複合材料を供試体として、引張および圧縮の定荷重負荷による静的クリープ試験と、クリープ試験前後のコンプライアンス測定を実施した。この供試体は実用化が期待されている複合材料の一つである。母相6061Al合金のクリープ挙動は、いわゆる"合金型"、すなわち応力指数n=3のべき乗則に概ね従うことが従来示唆されており、本実験でもこれを確認した。引張と圧縮のクリープ曲線は特に高応力域で顕著な違いを生じ、引張クリープでは強化相破壊や界面剥離による損傷累積過程が伴っていることをコンプライアンス測定によって初めて明らかにした。以上の結果、複合材料のクリープとは本質的に"非定常"な変形過程であり、母相のクリープ変形の進行に伴って強化相が担うべき応力は徐々にレベルアップし、ひいては、強化相破壊や界面剥離などの損傷累積過程も必然的に関与すること、したがって"定常クリープ"の存在を前提とした従来の研究は全て、前提そのものの誤りを認識すべきであることを、本研究は強く指摘するものである。
|