研究概要 |
本課題では、軽量・高剛性・耐熱構造材料として注目されているセラミック粒子強化金属基複合材料(Metal Matrix Composites,MMC)の高温変形挙動(擬弾性、クリープ)に関し、特に強化粒子まわりでの局所的な拡散クリープによる応力緩和の重要性に着目して、理論的・実験的研究を行った。はじめに、多結晶体を対象とした従来の拡散クリープ理論では、拡散と同時に必然的に生ずべき粒界での粘性すべりの効果が定量的には全く把握できないことから、これを考慮した連続体モデルによる一連の解析を行って、粒界すべりによる擬弾性挙動をも包含した新たな拡散クリープ理論を展開した。すなわち、多結晶体における拡散クリープとは、本来、拡散と粘性すべりが同時進行する'連成流れ過程'であり、4要素spring-dashpotモデルに対応する'線形'粘弾性挙動を呈すべきものであること、その'定常'成分の速度係数にも粘性すべりの項が含まれることを定量的に示し、従来の拡散クリープ理論では粘性すべり速度が拡散速度を遥かに上まわることを前提としていること明らかにした。ただし、現実の多くの状況下では上記前提は概ね妥当と考えられる。この点をふまえ、次いで、MMCにおける強化粒子まわりでの拡散クリープがマトリックスの'べき乗則'クリープと連成する問題を扱った。この過程は、一般には数値計算を必要とする非線形微分方程式によって記述されるが、ここでは特に応力指数n=3の'合金型(class l)'クリープ挙動に着目し、内部応力としてマトリックス中に発生する'逆応力'の発展過程に焦点をあてて'非線形'粘弾性挙動を解析的に定式化した。これにより、MMCのクリープは本質的に'非定常'な過程であり、その長時間側の漸近挙動が'定常クリープ'に相当するが、そのクリ-プ速度の負荷応力依存性は、'べき乗則'では記述できないこと、さらに、特に高応力下では強化粒子の破壊や界面剥離などの損傷過程も関与して、実験により求めた'最小クリープ速度'は必ずしも'定常クリープ'を反映せず、'加速クリープ'域でのデータである可能性を指摘した。これを検証すべく行ったSiC粒子強化6061Al合金系MMCに関する実験データはすべて、上述の観点から合理的に解釈できることを示し、従来の'べき乗則'を前提とする解釈ではMMCにおけるクリープの本質が歪曲されると結論した。
|