歯科用銀パラジウム銅金合金(Ag-20.0%Pd-14.5%Cu-12.0%Au-2.0%Zn)に種々の熱処理を施し、大気中および疑似唾液中での疲労試験を行い、疲労強度とミクロ組織との関係を調査した、次いで、同各合金につき、疑似唾液中にて、相手材に同合金およびジルコニアを用いた場合の摩擦磨耗特性を調査した。 大気中での歯科用銀パラジウム銅金合金の疲労強度は、溶体化後水冷した場合には、低サイクル疲労寿命域においては溶体化温度が高いほど疲労強度が高くなるが、高サイクル疲労寿命域においては逆に溶体化温度が低いほど疲労強度が高くなる傾向となることがわかった。さらに、溶体化後時効し、β相を多量に析出析出させた場合には、低サイクル疲労寿命域においては析出強化のために疲労強度が高くなるが、高サイクル疲労寿命域においてはβ相が疲労き裂の発生および進展サイトとなるため、疲労強度が著しく低下することを見出した。次いで、本合金につき、人工唾液中での疲労試験を行った所、溶体化まま材では大気中での疲労強度と比べほぼ同等の疲労強度を示したが、溶体化・時効材では、特に高サイクル疲労寿命域で疲労強度が大気中に比べ低下することがわかった。この原因として、溶体化・時効材では、β相とマトリックス界面の腐食が進行し、そこが局部応力集中箇所となるためであることが考えられた。さらに、本合金の人工唾液中での摩擦磨耗特性評価では、先ず磨耗相手材によって本合金の摩擦磨耗挙動が大きく異なる結果を得た。すなわち、磨耗相手材に本合金を用いた場合には溶体化・時効材の摩擦磨耗特性が、溶体化まま材に比べより良好であるが、磨耗相手材にジルコニアを用いた場合にはいずれの熱処理材も良好な摩擦磨耗特性を示した。また、本合金を相手材とした場合の本合金の摩擦磨耗特性も調査したところ、純水および人工唾液中では本合金試験片および相手材ともに磨耗するが、大気中では特に相手材の方がより磨耗するとの知見を得た。
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