研究概要 |
本研究の目的は,高温でのひずみ電極システムおよびスクラッチ電極システムを確立し,それらの手法により溶融塩中での酸化皮膜の化学的安定性に及ぼす塩基度の影響を調べることにあった.しかしながら,平成8,9年度の科学研究費により開発したひずみ電極システムにいくつかの問題点があることが研究を進めるにつれてわかってきた.大きな問題としては電極と坩堝の接触部での溶融塩の漏れ,アノード分極したときの大きな定常電流が挙げられる.そこで本研究では,前ひずみ電極システムを改良し,より信頼性のシステムを開発することに重点が置かれた.改良点としては,溶融塩の漏れを軽減するため坩堝をアルミナからステンレス製にし,試験片と坩堝の接触部をねじ込み式とした.また定常電流を最小にするため坩堝の内壁および試験片の応力集中部以外をボロンナイトライドにより絶縁被覆した. 試験片をSUS304鋼,溶融塩を300℃の共晶組成の硝酸塩(NaNO_3-KNO_3)とし,改良したひずみ電極システムにより,ステンレス鋼の被膜破壊・修復過程をモニタリングした結果,以下のことが明らかとなった.(1)弾性変形領域ではひずみに対する応答電流は観察されない.このことから弾性域では不働態皮膜の破棄が起きないことがわかった.一方,塑性変形領域では明確な応答電流が観察され,表面にあらわれたすべりステップにより不働態被膜が破壊され新生面が生じることが確認できた.(2)硝酸溶融塩中でのステンレス鋼の再不働態はきわめて速く,10mol%までの塩化物イオンが共存する場合でも,ほとんど影響を受けないことがわかった.これらは硝酸イオンの強い酸化力と不働態被膜(Cr_2O_3)のこの浴中での高い化学的安定性を意味するものである.(3)塑性変形によりあらわれる新生面の面積はひずみ量が多くなるにつれて減少することがわかった.これは転位の増加により表面にあらわれるステップが細かくなることにより説明することができた.
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