バイポーラ膜は、正荷電層と負荷電層が膜の法線方向に対して直列に配置した構造を持つ。このバイポーラ膜に正荷電層側からバイアスを印加(逆バイアス)すると整流作用を示し、更に高いバイアスを印加すると膜の中間層において水解離現象が観測される。現在、水解離現象については第二ウィーン効果モデル、化学反応モデルが提案されているが、いずれも問題点があり水解離の機構の解明には至っていない。ここでは、水解離機構について水ー分子の解離平衡に注目していたこれまでのモデルに対し、膜内の水のネットワーク構造を仮定し、これにツェナー効果理論を適用したモデルを提唱した。これらの水解離機構モデルを論ずる上で、水の解離速度定数及び膜中間層の誘電率は重要な因子である。そこで、まず正荷電層に強塩基である4級アミノ基、負荷電層に強酸であるスルホン酸基が導入されたバイポーラ膜を用いて、直流逆バイアス印加時のバイポーラ膜の電流密度ー電圧特性の温度依存性について観測を行った。実験値と理論値を比較した結果、ツェナー効果モデルは他の二つのモデルに比べて実験値と良く一致し、また用いた物理定数はモデルに矛盾しない値を示した。次に直流バイアス印加時のバイポーラ膜のアドミッタンスを観測することによって、これまで殆ど行われていなかったバイポーラ膜中間層の誘電率に関して考察を行った。三相等価回路モデルを仮定することにより、バイポーラ膜のアドミッタンスから中間層のコンダクタンス及びキャパシタンスを得ることが出来る。最後に中間層の高分子のの構造を制御した上で有溶媒系において電流/電圧曲線の測定を行い、誘電率の異なった系における水の解離現象について考察を加えた。
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