地球上の生物に対する紫外線の影響が盛んに論じられており、なかでも紫外線吸収物質の単離が海洋生物から広く行われている。海洋微細藻類から紫外線吸収物質として、マイクロスポリン様物質がすでに単離されているが、その分子生物学的な解析はあまり進んでいないのが現状である。我々は高等植物と同様な酸素発生型の光合成系を有し、植物の葉緑体の起源とも言われている藍藻に着目し、長波長域の紫外線(UV-A)に対して高い耐性能を有する糸状性海洋藍藻Oscillatoria sp.NKBG 091600を分離し、この耐性能力はUV-Aを吸収するビオプリテリングコシドが細胞内で生産されることによって付与されることを明らかにした。そこで、本研究ではこの海洋藍藻でのUV-A耐性機構を分子生物学的レベルで解明し、その機能を人為的に付与したUV-A耐性生物の創製を目的として実験を行った。まず、UV-A耐性海洋藍藻における遺伝子組み換えについて、トランスポゾンベクターを用いて検討した。接合伝達法によって10^<-4>の効率で接合伝達体が得られた。獲得されたトランスポゾン導入株の中からUV-A耐性欠損変異株をスクリーニングを行った。その結果、変異株3株が得られ、キャラクタリゼーションを行ったところ、すべての変異株でUV-A照射下でのビオプリテングリコシド含有量は野生株に比べて半分以下に減少していた。さらに、フィコシアニンやフィコエリスリンのビリプロテイン含有量がUV-A照射で低下することが観察された。これは、ビオプテリングリコシドがUV-A照射下で光合成色素の保護に寄与するという知見を検証するものであった。また、UV-A照射によって誘導されるタンパク質は少なくとも5種が確認され、特に60kDaのタンパク質ではUV-A照射から400〜500分後に著しい誘導が見られた。さらに、UV-A照射下でのmRNA量の変化を調べたところ、200〜300分の間に著しい増加が見られたことから転写レベルで制御されていることが示唆された。
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