marA、robあるいはsoxS遺伝子を高発現させることによって大腸菌の有機溶媒耐性が向上し、シクロヘキサンに耐性となることをかつて示した。これは、sox-marレギュロンにコードされるAcrAB-TolC排出ポンプが高生産されるためであることを以下の実験によって確認した。1.上記遺伝子群のいずれかを大腸菌に形質転換した場合には、sox-marレギュロン遺伝子群の発現が上昇する。2.有機溶媒耐性が向上した突然変異株では、marオペロンのリプレッサーをコードするmarRにミスセンス変異が認められる。組換えMarAタンパク質に対して作製した抗MarA血清を用いて、シクロヘキサン耐性のmarR変異株においてMarAが高生産されていることを認めた。3.sox-marレギュロン遺伝子の発現向上によって、大腸菌細胞内から疎水性異物を排出するAcrAB-TolCポンプを構成するタンパク質AcrA、AcrB、TolCの生産が増加する。4.acrAB、tolCのいずれかの遺伝子が欠失した大腸菌では、有機溶媒耐性が著しく低下する。そして、marA、robあるいはsoxS遺伝子を高発現させても、溶媒耐性は向上しない。5.遺伝子acrA、acrB、tolCを高発現させた大腸菌の有機溶媒耐性は向上しシクロヘキサン耐性を獲得する。 marA、rob、soxS遺伝子の高発現によっては、シクロヘキサンより毒性が強い溶媒に対する耐性を獲得できなかった。シクロヘキサンより毒性が強いp-キシレンで重層した寒天培地上において生育可能な変異株を新規に分離した。本変異株では、OmpF、TolC、AcrABとは異なる膜タンパク質群において顕著な量的変化が起きていることが認められた。シクロヘキサンより毒性が強いp-キシレンに対する耐性を獲得するためには、上記の遺伝子とは異なる遺伝子の発現が必要であるとも考えられる。現在、これらのタンパク質の同定をおこなっている。
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