本研究は、ヘテロ原子が高原子価状態を取り易いという特性を利用し、テルルのハイパーバレント活性種を中間体とする合成反応の開拓を目的として行われた。申請者らは、二置換有機テルリドと炭素アニオン種との反応により、テルルのアート型錯体を経てテルル上での置換反応が効率よく進行する事を見出している。本年度は、テルロールエステル類とブチルリチウムとの反応により、対応するカルボニルリチウム類を発生させ、その動力学的安定性と反応挙動を検討した。その結果、アリール置換基を有するカルボニルリチウム(アロイルリチウム)は一酸化炭素を脱離する事なく、低温下でも素早く二量化する事を明らかにした。また、アリール基上に立体的に嵩高い置換基を導入する事により、アロイルリチウムの動力学的安定性が大きく増大ずる事を示した。一方、アルキル基を有するカルボニルリチウム(アシルリチウム)は、アルキル基上の置換基の種類により反応挙動が大きく異なる事を見出した。すなわち、フェニル基をα位に有するアシルリチウムは低温下でも一酸化炭素の脱離が速い事、また電子吸引基を持たないアシルリチウムは一酸化炭素を脱離する事なく素早く二量化する事を明らかにした。さらに、前周期遷移金属のアート型錯体を用いた合成反応にも着手し、オレフィン類に炭素およびケイ素官能基を位置選択的に導入する新反応を開発した。例えば、ジルコノセン錯体を触媒とするクロロシランによるオレフィン類のシリル化反応、チタノセン触媒を利用するアルキルハライドによるオレフィン類の位置選択的ダブルアルキル化反応等を開発した。
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