本年度は、テルルのアート型高原子価中間体を活性種とする合成反応の開拓を目的として、種々の有機テルル化合物と有機金属試薬との反応を検討し、新しい炭素-炭素結合生成手法を開拓した。例えば、ビニルテルリドと有機亜鉛試薬との反応により、ビニル亜鉛化合物が立体保持で効率よく生成することを明らかにした。本反応で生成させたビニル亜鉛化合物の合成化学的応用についても検討し、遷移金属触媒を用いる有機ハライドとのカップリング反応、およびアルデヒドへの不斉付加反応を開発した。また、アリル、ベンジル、プロパルギルハライド類から対応する有機亜鉛化合物の簡便な生成法を開発すると共に、アリルおよびベンジル亜鉛化合物については、対応するアルコールから、中間体としてトシラート、テルリドを経るワンポット生成法を開発した。さらに、テルルのアート型錯体に関する研究により得られた知見を基に、遷移金属錯体のアート型錯体の反応性の解明とその合成化学的応用面の開拓を行った。その結果、ジルコニウムやチタン等の第4属遷移金属を触媒とする新しいシリル化反応およびアルキル化反応を開発した。これらの反応では、クロロシランやアルキルハライドを、それぞれシリル化剤およびアルキル化剤として利用することが可能であり、穏和な条件下でこれらの官能基をオレフィンやジエン類に効率よく導入することができる。また、ヘテロ元素の反応性を検討する中で、セレンを用いるアミンとイソニトリルからカルボジイミドの新しい合成法を開発した。アート型錯体の化学はまだ未開拓の部分が多く、その生成ならびに反応制御の手法を確立することにより、有機合成反応への応用に大きな可能性が残されている。
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