研究概要 |
Wacker型酸化に代表されるPd(II)を活性種とする酸化反応は、合成化学上有用な反応の一つであり、Pd(0)のPd(II)への再酸化剤として塩化銅-酸素系を用いる。以前我々は、モリブドバナドリン酸塩(NPMoV)とハイドロキノン(HQ)を組み合わせることにより、Pd(II)/HQ/NPMoV/O_2系よりなるクロライドフリーなマルチ触媒システムが構築でき、アルケンの酸化反応が良好に進行することを報告している。本研究では、Pd(II)/HQ/NPMoV/O_2系を用いることでアルキン類の選択的な変換反応を達成した。4-オクチンを触媒量の酢酸パラジウム,HQ-Cl,NPMoVおよびメタンスルホン酸存在下、ジオキサン中常圧酸素雰囲気のもと60℃で15時間反応を行ったところ、環化三量化反応が起こり、ヘキサプロピルベンゼンが50%の収率で得られることを見出した。本反応は分子状酸素非存在下では進行しない。これまで酸素を用いた環化三量化反応はほとんど知られていない。一方、Pd(II)によるアルキンの重要な反応の一つである一酸化炭素によるカルボキシル化反応について検討した。多元系触媒,Pd(II)/HQ/NPMoV,を用い、フェニルアセチレンを一酸化炭素および酸素存在下メタノール中反応すると、フェニルプロピオン酸メチル(85%)で得られた。一方、溶媒にジオキサンを用いると、フェニル無水マレイン酸(62%)へと変換されることが明らかになった。本反応も、環化三量化と同様、酸素非存在下では全く進行しなかった。 このように、Pd(II)/HQ/NPMoV/O_2触媒系を用いることにより、クロライドフリーな再酸化システムを構築でき、分子状酸素を用いたアルキンの選択的な変換反応に成功した。
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