クロロフィル類を光治療に用いるためには、その物理化学的性質、特に親水性-疎水性のコントロールが必要である。本研究では、化学的および酵素的な分子構造の変換法を確立することをまず第一の目的とした。まず、クロリン環および中心金属であるマグネシウムの脱離反応を調べるため、微生物由来のクロロフィルgを対象にアセトン-水系で酸触媒反応を行った。生成物の分析には高速液体クロマトグラフを、反応速度の決定には紫外ー可視スペクトル法を用いた。その結果、クロリン環8位の不飽和結合に於いて水素転移を伴う異性化が容易に進行することを見出した。さらに同様のアセトン-水系で、脱金属反応(フェオフィチン化)が進行し、これらの反応選択性が溶媒組成により容易にコントロールできることを見出した。フェオフィチン類も光治療材料として用いられることから、この方法はクロロフィルの構造変換法として非常に有用と思われる。 一方、近年酸性の温泉に生息するバクテリア中に、亜鉛を中心金属とするクロロフィルがわれわれのグループにより発見された。この亜鉛クロロフィルの化学的性質を詳細に検討した結果、酸に対する耐性が非常に高く、脱金属の半減期はマグネシウムクロロフィルの9minに対し約12yearであった。さらにこのバクテリアは、亜鉛クロロフィルにより光合成を行っていることが明らかにされた。これらの事実は、亜鉛クロロフィルが安定性に優れた光治療用増感剤の有力な候補であることを示唆している。 一方、酵素法によるクロロフィル側鎖のエステル交換のモデル反応として、有機溶媒中でのプロテアーゼ(α-キモトリプシンおよびスブチリシン)によるアミノ酸エステル交換を試みた。その結果、酵素の活性および安定性は有機溶媒の種類および水の含量に強く依存することを見出した。現在、その安定化の方法として、固定化および糖類との共凍結乾燥法を検討している。
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