クロロフィル誘導体は光照射下でDNAを切断する機能を有する事を見出した。しかし光線力学療法に用いるためには、がん細胞内に集積させるための化学修飾が必要である。クロロフィルは熱、酸・アルカリ、光などにより容易に脱金属、異性化などの反応を起こすため通常の化学反応による分子構造の改変は困難である。そこで、プロテアーゼやリパーゼなどの加水分解酵素を用いることにより、エステル部位の立体特異的加水分解及びエステル交換を試みた。しかし、クロロフィルは水に難溶性であるため有機溶媒の使用が不可欠であった。多くの酵素は有機溶媒により失活するため、本研究では、まず各種の有機溶媒-水の混合系でのプロテアーゼの構造変化を円二色性スペクトルの測定から検出し、それらの系での触媒活性との相関を詳細に検討した。その結果、有機溶媒は酵素の二次構造を大きく変化させるが、構造変化と活性との間に明瞭な関係を認めた。このため、有機溶媒系での酵素の活性と安定性保持の方法を探求した。その結果、α-キモトリプシンはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スブチリシンはα-シクロデキストリンと共凍結乾燥する事により活性及び安定性が大幅に向上する事が見出された。 一方、光線力学療法には現在フォトフリンと呼ばれる腫瘍集積性を持つ光増感物質が用いられているが、血液から製造されるためウィルス感染の可能性など問題点が多い。この解決のため、クロロフィルの代謝物質であるフェオフォーバイドのNa塩を用い、in vitroで癌細胞に作用させて細胞内集積の最適化を行った。細胞内に取り込まれた色素は光吸収強度より算出した。その結果、Naフェオフォーバイドaは、効率的に細胞内に取り込まれ、約4時間で最高濃度に達した。したがって現在の光増感剤と比較して、投与してからレーザー照射までの時間を大幅に短縮出来ると予測される。
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