研究概要 |
新しい概念に基づく炭素骨格形成反応を創製することは、次世代の有機合成化学および有機工業化学の発展に不可欠である。我々は20年来他に先駆けてルテニウム錯体触媒を用いる新しい炭素-炭素結合生成反応を見い出し報告してきた。その中で、最近、我々は、炭素-炭素結合の接触的開裂を含む2つの新反応として、1)Ru(シクロオクタジ工冫)(シクロオクタトリエン)触媒を用いる2,5-ノルボルナジエン(NBD)の新規二量化反応によるペンタシクロテトラデカジエン(PCTD)の合成、および2)RUCl_2(PPh_3)_3触媒存在下、β-位に水素原子を有しない3級ホモアリルアルコール類の高選択的脱アリル化反応を見い出した。本年度は、これらの反応についで、特に、1)7-位に置換基を有するNBDの二量化反応によるPCTD誘導体の合成と反応機構の考察、2)PCTDの高効率・高選択的合成を可能とする新規ルテニウム触媒系の開発、および3)環状3級ホモアリルアルコールの開環脱アリル化反応の開発を行い、以下の成果を得た。 1) 7-位に置換基を有するNBDの二有するNBDの二量化反応による置換PCTD誘導体の合成および反応機構の考察:7-位にtert-BuO基を有するNBDの二量化反応により、4,9一位にtert-BuO基を有するPCTD誘導体(endo-体+exo-体の混合物)、および7,12-位にtert-BuO基を有するHCTD(ヘプタシク口テトラデカン)誘導体が4:1の比で総収率40%で得られた。このことは、二分子のNBDがendo-endoで二量化した配位子を持つルテニウム中間体において、一つのNBDの2,3-位の炭素-炭素結合の切断(酸化的付加)、およびもう一つのNBD骨格の1,2-位の炭素-炭素結合の切断(β-炭素脱離)によりPCTDが生成する反応機構を支持している。 2) PCTDの高効率・高選択的合性を可能とする新規ルテニウム触媒系の開発:新規0価5配位ルテニウム錯体Ru(シクロオクタトリエン)(ジメチルフマレート)_2の合成、およびその単結晶X線構造解析に成功した。本錯体は、NBDの二量化反応によるPCTD合成において、従来の触媒系をはるかに上回る高い触媒活性および高い生成物選択性を示し、反応温度40℃、反応時間1時間の反応により、PCTDが収率96%で得られた。 3)環状3級ホモアリルアルコールの開環脱アリル化反応:RuCl_2(PPh_3)_3触媒存在下、環状3級ホモアリルルコール,1,5-ジメチル-2-(イソプロペニル)シクロヘキサン-1-オール,の高選択的開環脱アリル化反応が進行し、生成した不飽和ケトンの水素化反応を経て、4,8-ジメチルノナン-2-わが単一生成物として収率73%で得られた。
|