研究概要 |
新しい概念に基づく炭素骨格形成反応を創製することは、次世代の有機合成化学および有機工業化学の発展に不可欠である。我々は20年来他に先駆けてルテニウム錯体触媒を用いる新しい炭素―炭素結合生成反応を見出し報告してきた。その中で、最近、我々は、炭素―炭素結合の接触的開裂と再配列を含む新反応として、ルテニウム錯体触媒を用いる2,5-ノルボルナジエン(NBD)の新規二量化反応によるペンタシクロテトラデカジエン(PCTD)の合成を見出した。本年度は、1)PCTDのジエン部分への官能基導入、特に酸化反応による新しい篭型分子群の創製、2)高効率・高選択的PCTD合成触媒としての新規ルテニウム錯体の合成およびその反応性を検討し、以下の成果を得た。 1)PCTDのジエン部分への官能基導入による新しい篭型分子群の創製:PCTDの二つの二重結合の酸化反応による官能基の導入について検討した結果、MeReO_3触媒/30%H_2O_2aq.を用いた酸化反応では、exo-ジエポキシ化物が収率90%で、OsO_4触媒/4-メチルモルホリン-N-オキシドを用いた酸化反応では、exo-テトラヒドロキシル化物が収率65%で、さらにRuCl_3・3H_2O触媒/NalO_4による酸化反応では、PCTDの二重結合の切断を伴い、二つのラクトン環を有するトリシクロデカンカルボン酸が収率31%で得られることを明らかにした。 2)PCTDの高効率・高選択的合成を可能とした新規ルテニウム触媒の創製: 新規0価5配位ルテニウム錯体Ru(cot)-(dmfm)_2[cot=1,3,5-cyclooctatriene,dmfm=dimethyl fumarate]の合成およびその単結晶X線構造解析に成功した。本錯体の触媒活性を検討した結果、NBDの新規二量化反応によるPCTD合成に極めて高い触媒活性を示し、反応温度40℃という穏和な条件下、反応は1時間で完結し、PCTDが収率96%で高選択的に得られた。さらに本錯体は、多様な配位子交換反応が可能であり、本錯体を出発原料とする種々のモノアミンおよびジアミン配位新規0価ルテニウム錯体の合成および単結晶X線構造解析に成功した。これらの錯体は、炭素―炭素結合の接触的開裂反応のみならず、アミンの接触的N-H結合活性化を経る不飽和炭化水素への付加反応(ヒドロアミノ化反応)等の新規触媒として作用する可能性を秘めている。
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