研究概要 |
新しい概念に基づく炭素骨格形成反応の創製は、次世代の有磯合成化学および有機工業化学の発展のために不可欠でる。我々はこれまで、先駆的に独自の方法でルテニウム錯体の接触化学について詳細な検討を行ってきた。最近では、炭素-炭素結合の接触的開裂/炭索骨格の再配列を含む新反応として、(1)ルテニウム錯体触媒を用いる2,5-ノルボルナジエンの新規二量化反応、および(2)3級ホモアリルアルコール類の選択的脱アリル化反応を見出し報告している。本年度はこれらの知見を基に、さらに新しい炭素骨格形成反応として、1.シクロブテンジオン類とアルケンとの新規脱モノカルボニル化カップリング反応、2.π-アリルルテニウム中間体の特異な反応性を利用したアルケンとの新規交差カルボニル化反応の開発を行った。さらに、3.先の2,5-ノルボルナジエンの二量化反応において、高い触媒活性を示した新規0価ルテニウム錯体,Ru(η^5-cyclooctatriene)(η^2-dimethyl fumarate)_2,について、錯体化学的に詳細な検討を行い、一連の新規ルテニウムーホスフィン錯体の合成、X線溝造解析に成功し、その反応性を明らかにした。 1.ルテニウム錯体触媒を用いるシクロブテンジオン類とアルケンとの新規脱モノカルボニル化カップリング反応の開発 シクロブテンジオン類をアルキンおよび一酸化炭素等価体と考え、アルケンとの交差カップリング反応について詳細な検討を行った。その結果、Ru_3(CO)_<12>/PEt_3触媒存在下、3-位にアルコキシ置換基を有するシクロブテンジオン類の2,3-位の位置選択的炭素-炭素結片切断を経るアルケンとの新規脱モノカルボニル化カップリング反応が進行し、対応するシクロペンテノン誘導体が高位置および立体選択的に良好な収率で得られることを見出した。 2.ルテニウム錯体触媒存在下、アリル炭酸エステル類とオレフィンとの新規交差カルボニル化反応の開発 当研究室で見出したπ-アリルルテニウム錯体の特異な反応性を利用した新規合成反応を開発する過程において、新規ルテニウム触媒系,(η^3-C_3H_5)RuBr(CO)_3/Et_5N、を用いるアリル炭酸エステル類とアルケンとの新規交差カルボニル化反応によるシクロペンテノン誘導体合成法を開発した。(1)、(2)いずれの反応も、これまで量論反応であるにも拘わらず、広く有機合成反応に用いられてきた分子間Pauson-Khand反応を凌駕する接触的新規シクロペンテノン骨格構築法である。 3.Ru(η^5-cyclooctatriene)(η^2-dimethyl fumarate)_2錯体と単座および二座ホスフィン配位子との反応 当研究室で初めて合成したRu(η^6-cycloocatriene)(η^2-dimethyl fumarate)_2錯体と単座および二座ホスフィン配位子との反応を詳細に検討した。その結果、一連の新規0価Ru-ホスフィン錯体の合成に成功した。特に1,2-bis(diphenylphosphino)ethaneとの反応では、dimethyl fumarateのsp^2-炭素-水素結合の活性化、活性化された炭素-水素結合へのもう1分子のdimethyl fumarateの挿入による新規2価(アルキル)(アルケニル)Ru錯体が生成することを明らかにした。さらに一酸化炭素加圧下、本錯体からの還元的脱離反応が進行し、dimethyl fumarate二量体が得られることも明らかにしており、本反応は遷移金属錯体触媒を用いるアルケン二量化反応の反応機構を理解する上で極めて重要な知見と考えられる。
|