我々は、0価パラジウム錯体に対して種々の酸無水物が炭素ー酸素結合の開裂を伴って酸化的付加し、対応するアシル(カルポキシラト)パラジウム錯体が生成することを見い出した。さらに、この錯体が一気圧の水素分子と反応して、アルデヒドとカルボン酸を生成することを確認した。これらの素反応的知見を触媒的プロセスに発展させることにより、パラジウム錯体を用いる、酸無水物の触媒的水素化によるアルデヒド合成反応を新規に開発した。本水素化反応によれば、酸無水物から等量のアルデヒドとカルボン酸が得られる。さらに、本水素化反応を、カルボン酸と、他の酸無水物との混合系で実施することにより、カルボン酸をワンポットで直接アルデヒドに変換する新規触媒プロセスを実現した。たとえば、n-オクタン酸(2mmol)を、無水トリメチル酢酸(6mmol)、およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.02mmol)存在下、THF(5cm^3)溶媒中、温度80℃、3.0 MPaの水素圧力で、オートクレープ中24時間反応させることにより、n-オクチルアルデヒドが収率98%で生成する。このとき、反応の副生物として、トリメチル酢酸(260%)および少量のトリメチルアセトアルデヒド(23%)も生成することがわかった。本水素化反応は、脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、複素芳香族カルボン酸、多塩基カルボン酸など、様々な有機カルボン酸を、分子内炭素ー炭素二重結合やケトン・エステル等のカルボニル基を還元することなく、選択的にアルデヒドへと変換することができることから、有機合成化学上有用な反応であると考えられる。
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