申請者は、炭素鎖オリゴマーである胆汁酸ステロイドをホストとして長年包接化合物の研究を続けてきた。この研究過程で、ホスト分子がらせん状超分子を形成する例が見つかった。このらせん構造は、タンパク質や核酸などの生体高分子のらせん構造と何らかの深い関係があるように思われる。そこで本研究は、できるだけ多数のらせん状包接体をつくり、炭素鎖オリゴマーであるステロイドとらせん集合体との相関関係や分子認識機構を解明することを目的とし、次のような研究成果が得られた。 1.キラルな定序性炭素鎖オリゴマーの合成を行った。水素結合基を複数個もつホストを市販品のコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸などから合成し、これら炭素鎖オリゴマーを各種有機溶媒から結晶化してらせん状超分子体を形成させた。 2.さらに通常の溶媒類を用いて、上記オリゴマーの包接化を探索した。通常一つのオリゴマーについて百種以上のゲスト候補を調べ、らせん状超分子体の有無を探索した。 3.得られた超分子の結晶構造と溶液中の構造を、赤外吸収分光法、核磁気共鳴分光法、X線粉末回折法などにより調べた。数十個以上の超分子の単結晶のX線構造解析により、らせん構造を50種以上見つけた。分子グラフィックスにより分子集合体を解析し、らせん構造や包接空間さらに分子認識機構などを明らかにした。 4.分子構造の変化と水素結合・分子配列の変化との対応関係に基づき、らせん集合体に導く分子構造について考察した結果、らせん集合の普遍的存在を確信するに至った。
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