研究概要 |
強誘電体であるP(VDF/TrFE)共重合体の常誘電相での分子鎖の運動を詳細に知る目的で,VDF/TrE組成比の異なる単結晶状膜を作製した.これらを150枚程度積み重ねたブロックから分子鎖方向に垂直に切断して作製した薄板試料を用いて,常誘電相での誘電率緩和の異方性を調べた.X線回折の温度変化も調べた.その結果,分子鎖は六方格子中で隣接分子とは無関係に束縛回転していること,一本の分子鎖の中では双極子を上向き,または下向きに揃えた5〜10個程度のTGTG連鎖がflip-flop運動していること,連鎖の長さ(相関長)は高温では短く,相転移点付近で最も長くなること,これが,転移点での大きい誘電率の原因であることが分かった.この現象は高分子性の顕著な現れである.分子鎖運動をより詳細に知る目的で,分子鎖が磁場に平行と垂直の2種類のNMR測定用単結晶状ブロック試料を作製し,室温での予備的測定を行った.この試料で詳細な測定が可能であることを確認した.また,電子顕微鏡とX線を用いて単結晶状膜の高次構造を調べた.単結晶状膜では分子鎖方向に無限に伸びた直径200nmのロッド状結晶がa,b軸を揃えて集合していること,薄い膜ほどa,b軸の配向が向上することが分かった.この薄膜の膜面内の音速異方性を現有のブリルアン散乱(BS)装置(石巻専大)で測定可能か否かを知るため,室温で音波モードからの非弾性散乱測定を行った.厚さ40μm程度の膜でも十分可能であることを確認した.強誘電相転移に伴う弾性異常の研究に着手するため,高温用BSセルを完成させた.BSで分子鎖軸を含む試料面内の音速異方性及び膜に垂直な方向の音速測定が相転移温度を含む広い温度範囲で可能になった.さらに,単結晶状膜の一次電気光学効果を測定し,この効果が光変調に実用できる大きさであること,ずり圧電効果を用いた横波超音波送受波器を開発し,実用可能であることを実証した.
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