研究概要 |
強誘電性高分子であるP(VDF/TrFE)共重合体の一軸延伸膜を常誘電相で結晶化すると高度に二重配向した,単結晶状の膜が形成する.本年度は,この膜の高次構造,秩序形成課程,強誘電-常誘電相転移と分子鎖運動の関連について研究を進め次の結果を得た。(1)ポーリングした膜と脱分極した膜の構造をX線回折で調べた.分極した膜では,結晶(110)面が膜面に正確に平行でり,結晶単位胞の大きさb(分極軸)とaの比は正確には1:√<3>ではなく,bが電歪により縮んでいる。分極境界は(110)と(200)または(110)と(110)である.(2)この単結晶状膜には分子鎖のconformationの乱れと,分子鎖骨格の乱れの2種の結晶欠陥が存在し,前者の乱れはキュリー温度Tc直下の熱処理で,後者の欠陥は常誘電相での熱処理で解消し,それぞれTcと融点の上昇をもたらす.とくに,高圧下での常誘電相での結晶化によって,常圧結晶化膜よりも高度に2重配向した,融点が8℃も高い単結晶状膜が得られる.(3)常誘電相(hex相)ではTGTG鎖は回転運動とflip-flop運動をしている.分子鎖に平行方向の誘電分解とhex002のX線散漫散乱の温度依存性を測定しflip-flop運動が分子鎖の回転を伴って生じていること,flip-flop運動に関与するTGTG鎖の相関長,緩和時間の内容を明らかにした.(4)常誘電相のCH,CFのNMR核磁気緩和時間の測定から,分子鎖の運動の描象がかなり可能となった.(5)分子鎖方向に平行な変位をもつ横波音波を改良した方法で測定し,常誘電相では音速が50-60m/sと有限の値をもつことが分かった.(6)ブリルアン散乱での音速測定が縦波音波では常誘電相でも,横波音波では強誘電相で測定できるようになった.その理論的解析を行った.次年度では,これらの研究をさらに進展させ,総合的結論を得る予定である.
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