研究概要 |
顕著な強誘電性を示すフッ化ビニリデンと三フッ化エチレンの共重合体P(VDF/TrFE)の一軸延伸膜を常誘電相で熱処理結晶化すると,結晶c軸が延伸方向に配向するだけでなく,a,b軸も特定の方向に配向した単結晶状の膜となる.本年度は3年間の研究の最終年度として,X線回折,誘電緩和,圧電共振,ブリルアン散乱,NMRなどを手段として,この膜の高次構造,秩序形成過程,強誘電-常誘電相転移と分子鎖運動の関連について,総合的に研究を進めた.次の結果を得た.(1)強誘電相と常誘電相でのX線回折により,(i)ポーリング膜の強誘電相では(110)と(1^^-10)は膜面に平行であり,結晶はこれらの面を共有した双晶をつくる.(ii)a,b軸の配向秩序は常誘電相で形成され,高秩序化へ時間発展する.(2)長時間(100〜500時間)の熱処理でc軸と(110)面の配向秩序が顕著に向上する.分子鎖方向の縦波音速が10Kで10000m/sに達する単結晶状膜が得られた.ヤング率は10Kで203GPaであり,単結晶の理論弾性率に近い.(3)高圧(300MPa)での分子鎖方向の誘電測定結果はflip-flop運動するTGTG′連鎖の長さが,常圧での長さに比べて約2.5倍長いことを示す.(4)常誘電相にお3次の非線形誘電率は3次の誘電率は分子鎖方向では正であり,垂直方向では負であった.flip-flop運動するTGTG′連鎖の長さが,分子鎖方向の電場で長くなることを実証している.(6)ブリルアン散乱で求めた分子鎖方向の縦波音速が,GHz帯の測定にも拘わらず,圧電共振法で求めたKHz帯の音速との差異は少ないこと,キュリー点の前後で音速変化が少ないことが注目される.結果をランダウ理論にもとづき考察した.(7)NMRのスピン緩和から分子鎖のミクロな運動を明らかにした.本研究で高分子の本質がかなり明らかになった.しかし不明な点も多い.さらなる研究が望まれる.
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