Brassica連の7種を用い、ゲノムDNAからSLRl遺伝子(S-locus related genelに特異的なプライマーによりDNAを増幅し、クローニングして塩基配列を決した。増幅したDNAの塩基配列はBrassica oleraceaのSLRl遺伝子と84.9〜91.2%の相同性を示し、いずれの種も途中にストップコドンは含まず、415から419アミノ酸をコードしていた。推定アミノ酸配列はB.oleraceaのSLRlと71.9〜80.7%の相同性を示し、保存された12個のシスティン残基を全て保有していた。SLRlと類似のSLG(S糖タンパク質)とは53.2〜59.2%の相同性であることなどから、増幅したDNAはそれぞれの種のSLRl遺伝子であると考えられた。アミノ酸変異に富む領城は、SLGとはやや異なり、SLGの超可変領域IよりややN末端寄りの位置が変異に富んでいた。 既知のものを含め11種のSLRlの推定アミノ酸配列の相同性を比較したところ、最も高い相同性を示したのはSinapis albaとSinapis arvensisとの間であり、92.8%の相同性で、B.oleraceaとBrassica rapaとの関係(89.9%)よりも高かった。Eruca sativaとBrassica tournefortiiの間も91.4%の高い相同性が見られた。系統樹を作成したところ、B.oleraceaを含む6種のグループとBrassica nigraを含む4種のグループに大きく分かれ、Orycophragmusはそれらには属さなかった。このような関係は形態に基づく属や連の分類とは大きく異なった。系統樹が大きく2つのグループに分かれ、それぞれにBrassica属の種が存在し、B.nigraとB.oleraceaがそれぞれ別のグループの属することは、葉緑体DNAの制限酵素断片長の解析から推定された類縁関係を支持するものであったが、E.sativaとB.tournefortiiの密接な関係は本研究で初めて明らかとなり、既報の系統分類の結果とは異なるものであった。
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