アブラナ科植物の19種を用い、核のSLR1遺伝子(S-locus related gene 1)、葉緑体のrbcL遺伝子とPlastid subtype ID(PS-ID)の塩基配列を決定し、分子系統解析を行った。SLR1遺伝子の解析で、Brassica nigraはBrassica oleraceaやBrassica rapaとは同属でありながらかなり遠縁で、異属のErucastrum abyssinicumやRaphanus sativusの方がB.oleraceaやB.rapaと近縁であることが分かった。rbcLとPS-IDは類似した結果となり、B.rapa/B.oleracea群とSinapis alba/B.nigra群の2系統に分かれ、SLR1遺伝子の解析と同様にB.nigraがB.oleraceaとは遠縁であることが示された。今後これらの塩基配列の種内変異の程度を明らかにし、同義置換の率から種分化の年代を推定する。自家不和合性の自己認識特異性に関与するSRK遺伝子、およびSRKと相同性が高く密に連鎖するSLG遺伝子の塩基配列を4種の間で比較した。B.oleraceaとB.rapaおよびBrassica napusの比較では、これらの遺伝子において種間で極めて高い相同性を示す組み合わせがあり、これら3種の分化前には同じ遺伝子であったと推定される対立遺伝子が見出された。BrassicaとR.sativusのSLGの比較において、それぞれの属が独立のグループを形成しなかったことから、自家不和合性の自己認識特異性に関与するS複合遺伝子座の分化はこれらの種や属の分化前に起こったと考えられた。また、巨大DNA断片の分析から、種分化のときあるいはその後にS複合遺伝子座にDNA断片の挿入や欠失が起こったことが示唆された。
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