ソバ属植物の多収性を目指して生殖生物学的研究を行い以下の結果を得た。 他殖性作物ソバ集団の遺伝構造に関する受粉生物学的研究:ソバ集団内花粉流動の実態を調査した結果、開花の早い個体の花粉稔性が急激に低下するため開花の遅い個体への遺伝子流動はほとんどみられないこと、開花の遅い個体から早い個体への花粉流動は低頻度で見られるが、早咲き個体の雌性結実能力が低下するため遺伝子流動はみられないことなどから、普通ソバ集団内では無作為交配は行われておらず、同類交配が行われていることが示唆された。 季節的分断選抜の効果と機作に関する遺伝生態学的解析:秋型品種宮崎在来と夏型品種牡丹ソバとの雑種種子について夏栽培と秋栽培を交互に続けて、集団中の開花期に関する季節的分断選抜の効果を確認した。連続夏栽培によって開花が遅い個体が淘汰され、連続秋栽培によって開花が早い個体が淘汰されること、交互採種によってF1集団の中間的な開花期は維持されることが明らかになった。 我国在来種が保有する遺伝的多様性と生態型との関係:我国在来種の遺伝的多様性をAFLPマーカーにより解析するとともに、在来種が保有する形質変異との関係を明らかにしたところ、開花期の早生化に伴い変動する幾つかの遺伝子座を確認できた。 子実収量に及ぼす栽培環境の栽培生理・生態学的解析:畑地土壌として最も一般的な黒ボク土においては、リン酸および窒素はソバの成長よりも収量に及ぼす影響が大きく、カリは成長には影響したものの収量には影響しないことが明らかとなった。また、育成地とは異なる環境における種子生産性の解析を行った。カナダで育成された長花房の多収品種を日本で栽培したところ、栽培時期にかかわらず、花房長は比較品種であるしなの夏そばに比べて長く、平均節間長が短い倒伏しにくい形態を示し、個体当たりの種子重も多く、日本でも多収が望める形質を示すことがわかった。
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