研究概要 |
本研究は,サツマイモとその近縁野生種が有する胞子体型自家不和合性の分子遺伝学的機構を明らかにする事を目的としている.自家不和合性遺伝子(S遺伝子)に特異的な柱頭蛋白質(SSP)を我々は2次元電気泳動法によりすでに同定していることから,本年度は6種類のS遺伝子ホモ型個体から得た柱頭cDNAライブラリーを作成し,SSPをコードするcDNAクローンを得た.これらのクローンの塩基配列の解析から,SSP蛋白質のアミノ酸配列はS遺伝子ホモ型個体間で高度に保存されていることが明らかとなった.サツマイモ野生種の自然集団から見出された自家和合性変異体からもSSPをコードするcDNAクローンを得て解析した結果,C末端のアミノ酸配列が自家不和合性個体とは顕著に異なることが判明した.SSP遺伝子は雌蕊の柱頭や花柱で特異的に発現していることを明らかにした.データベースにおけるホモロジーサーチによって,SSP蛋白質はshort-chain alcohol dehydrogenase familyと高い相同性が認められ,このfamilyに属するバクテリアの20-beta hydroxysteroid dehydrogenaseと構造的類似性があることから,SSP蛋白質の基質としてBrassinosteroidなどの植物ホルモンが関与していると推察された.このようなSSP蛋白質の特徴から,サツマイモ野生種の雌蕊において花粉が発芽し花粉管が伸長する過程において,SSP蛋白質が機能しているものと考えられた.さらに自家不和合性との関連を明らかにするため,S遺伝子型に関して分離する交雑後代系統(A36系統)を作出し,この系統の約130個体についてそれぞれの個体のS遺伝子型を決定するとともに,各個体がらゲノミックDNAを抽出しRFLP分析を行なった.その結果,S遺伝子とSSP遺伝子との間で組換えを起こした3個体の組換え体が検出された.このことから,SSP遺伝子は遺伝子から約1.2cMの距離にマップされ,緊密に連鎖していることが明らかになった.
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