アントシアニンは、花だけでなく野菜や果実に含まれる色素で、その色素発現は品質として重要である。アントシアニンの発現は光環境の影響を受けやすく、栽培時の日照不足は著しく品質を低下させる。本研究は、光に対する反応の大きい植物と少さい植物を生理学的にあるいは遺伝子レベルで比較し、光環境による変動のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 1. カブを用いた実験 ‘本紅赤丸蕪'と‘津田蕪'の2品種の交配実験を行った。これら2品種は、それぞれ肥大部の着色に光を必要としない品種と光に完全に依存する品種であることがすでに確かめられている。これらのF1世代を採種したところ、すべてが暗黒下でも着色する‘本紅赤丸蕪'型であった。このことは、光に依存せずに色素発現をする形質が優性であることを示す。遺伝子の分離をみるため、現在F2の採種“をおこなっている。 2. イチゴを用いた実験 イチゴにも着色が光依存型の品種と非依存型のがある。イチゴは果実成長の後半に着色を開始するが、このとき‘とのよか'では着色に光を必要とするが、‘女峰'では着色に光を必要としない。これら2品種のうち‘女峰'で着色にともなうアントシアニン合成経路の遺伝子発現を調査したところ、合成経路上流のフェニルアラニンアシモニアリアーゼとカルコンシンターゼが色素の発現に関係なく一定の発現量を示したのに対し、下流のカルコンイソメラーゼとジヒドロフラボノール還元酵素は着色のピーク時にもっとも発現量が高かった。従って、‘女峰では'合成経路下流の酵素の遺伝子発現が着色を制御していると考えられた。
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