Alternaria alternataには、宿主特異的毒素を生産する7種の病原型が存在する。本研究では、これらのうち構造類似の毒素を生産するナシ黒斑病菌(AK毒素生産菌)、イチゴ黒斑病菌(AF毒素生産菌)およびタンゼリンbrown spot菌(ACT毒素生産菌)の毒素生合成遺伝子群の構造と機能を比較解析し、本菌における寄生性分化の分子機構の解明を目指した。研究成果の概要は以下の通りである。 (1)ナシ黒斑病菌のAK毒素生合成遺伝子クラスターを含む約80kbの領域の塩基配列を決定し、11個の推定読み枠を見出した。さらに、それらのうち8つの読み枠については、部位特異的遺伝子破壊の手法を用いて毒素生合成における機能を明らかにし、AKT遺伝子群と命名した。また、遺伝子間領域から複数のトランスポゾン様配列を見出した。 (2)同定した8遺伝子のうち6遺伝子がイチゴ黒斑病菌とタンゼリンbrown spot菌にも存在することを見出し、これらが3毒素に共通な部分構造の生合成に関与することを示唆した。 (3)イチゴ黒斑病菌とタンゼリンbrown spot菌の染色体DNAコスミドライブラリーを作製し、AKT相同配列を含むクローンを選抜した。 (4)イチゴ黒斑病菌のAF毒素生合成遺伝子クラスターから、5つのAKT相同遺伝子を同定するとともに、3つの新たな読み枠を見出した。そのうちのひとつは、イチゴ黒斑病菌に特異的な遺伝子であることを明らかにした。さらに、イチゴ黒斑病菌の毒素生合成遺伝子クラスターが、dispensable染色体(生存に不可欠でない染色体)に分布することを見出した。 (5)タンゼリンbrown spot菌のACT毒素生合成遺伝子クラスターから、3つのAKT相同遺伝子を同定するとともに、3つの新たな読み枠を見出した。さらに、AKT相同遺伝子のうち1遺伝子のターゲッティング株(ACT毒素欠損株)を作出し、その変異がナシ黒斑病菌遺伝子にまって相補できること、すなわち両菌の相同遺伝子が同じ機能を持つことを確認した。
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