研究概要 |
1.カイコ低温誘発灰色卵遺伝子(tsg)における特異形質の発現解析 第15連関群に所属する自然突然変異遺伝子"低温誘発灰色卵(tsg)"について形質発現の様式を精査した。この形質の特徴は、tsgホモの雌が蛹期を通じ25℃で保護された場合、産生される卵は全て正常であるのに対し、蛹中期において6〜15℃の低温に10時間あるいはそれ以上曝された時のみ同一蛾区内に一部灰色卵を混産する。蛾区内に産生される灰色卵の個数は、低温接触時間が10、24ならびに48時間の場合、それぞれ約8、16および24卵であった。これは卵黄小管あたり1、2および3個の卵が灰色になることを意味し、卵殻形成開始期のovarian follicleの個数を表している。一方,この事象はこの時期のovarian follicleは低温刺激に対して最も感受性が高いことを物語っている。灰色部分の卵殻断面を観察すると、卵殻中層部の構造のみが異常になっていた。すなわちtsg遺伝子は卵殻中層構造形成時に発現するものと推察した。 2.卵殻特異構造におけるカイコと他の絹糸虫類(エリ蚕:Samia cynthia ricini)との比較解析 野蚕の一種であるエリ蚕の卵殻について表面と断面の構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。卵の前極部外部表面には12〜20枚の花弁からなる精孔(精子の進入口)が開口し,その内部表面には精子が卵の前極原形質に移行するための精孔副枝細管が6〜10本分布していた。側面部,側面周辺部および後極部には比較的規則正しい六角形(五角形や七角形のものも少数混在する)の区画紋様と区画の内側中央部には1つの大きな窪みが観察され,区画3個の接点には大きな気孔が存在していた。更に,これらの気孔と窪みは筒状あるいはロート状を呈して卵殻中層部にまで陥入していた。卵殻の断面は極めて薄い柱梁組織構造をとる内層と薄膜シート状の外層および最も厚く、卵殻の大部分を占める中層の三層から構成されていた。中層はその構造形態からさらに不規則な斜状層を呈する上層部、多孔質状あるいはスポンジ状の中央層部、規則正しいラメラ状構造をとる下層部の三部に区分された。
|