研究概要 |
本研究の目的は、土着ダイズ根粒菌の遺伝的多様性の解析過程で分かってきた多コピーの挿入配列を保有するダイズ根粒菌Bradyrhizobium japonicum HRS株の生成機構と生態的な役割を明らかにしすることである。平成12年度は、以下のような成果が得られた。 B.japonicum HRS株の地理的・系統的分布を検討し、RS-alpha,RS-betaのコピー数の増加の程度と、土壌環境、血清型、増殖速度の間に関係を見い出した。すなわち、日本の新潟農業試験場の田畑輪環圃場に見い出されるRS-alphaコピー数が高いHRS株は、血清型110&122に、16S rRNA遺伝子に基づいた分子系統樹上でBJ1クラスターに属した。一方、米国の鉄欠乏アルカリ土壌から分離されたRS-betaのコピー数の高いHRS株は、血清型135に、分子系統樹上のBJ2クラスターに属した。これらの結果は、ダイズ根粒菌HRS株は、土壌条件や遺伝的背景に応じて生成し環境に適応してきたことを示唆しているものと考えられた。BJ1タイプのHRS株が新潟の田畑輪環圃場に高頻度に分離されるので、その原因を探るために、モデル実験を行った。元来HRS株の出現頻度が低い土壌を、土壌湛水処理を行うことにより、HRS株によるダイズ根粒の占有率が有為に上昇した。この結果は、酸素が遮断される土壌湛水によって、土壌細菌の微生物相が変化し、HRS株のpopulationがnon-HRS株より増加していることを示唆していた。次に、土壌環境に近い低栄養条件や栄養ストレス条件下におけるHRS株の増殖特性と生残性について検討を行った。通常の培地(HM,TY)では、HRS株の増殖速度はnon-HRS株より低いが、これらの培地を希釈すると両者の増殖速度はほぼ同じになった。さらに、30日以上の定常期を経た栄養ストレス細胞の増殖を検討したところ、田畑輪環圃場から分離されたHRS株では、当該圃場から分離されたnon-HRS株より10倍程度高いコロニー形成率を示した。これらの結果は、HRS株は、ストレス耐性が高い可能性を示唆していた。
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