研究概要 |
本研究は、土着ダイズ根粒菌の遺伝的多様性の解析過程で分かってきた多コピーの挿入配列を保有するダイズ根粒菌Bradyrhizobium japonicum HRS株の生成機構と生態的な役割を明らかにするために、(1)HRS株の地理的分布と分子系統、(2)圃場生態系における種内競争因子、(3)ゲノム再編成、(4)遺伝子水平伝達について検討を行った。 (地理的分布と分子系統)アメリカ合衆国、中国および日本保存株からHRS株が検出され、RS-alpha, RS-betaのコピー数の増加の程度と、土壌環境(湛水土壌やアルカリ土壌)、分子系統樹(BJ1,Bj2)、血清型、増殖速度の間に関係が認められた。 (圃場生態系における種内競争因子)HRS株がわずかに生息する土壌を畑条件下と水田を想定した湛水条件で2ヶ月間保持し根粒形成を調べたところ、湛水条件下においてHRS株の出現頻度が有為に増加した。土壌環境に近い低栄養条件や栄養ストレス条件下にいおて、HRS株の増殖速度はnon-HRS株とほとんど変わりはなく、30日以上の定常期を経た細胞では、HRS株のコロニー形成率が高い傾向が観察された。したがって、HRS株は、栄養ストレス耐性が高いと考えられた。 (ゲノム再編成)HRS株NK6の窒素固定(nif)遺伝子領域約20kbの塩基配列および遺伝子重複を起こしているヒドロゲナーゼ(hup)遺伝子領域の部分配列を決定したところ、機能的に重要な構造遺伝子は保存されていたが、通常株では本来その領域に存在していない挿入配列による領域分断やシャフリングが観察された。 (遺伝子水平伝達)B.Jaonicum HRS株NK5からnod遺伝子欠損B.elkaniiへのnod遺伝子の水平伝達が、土壌およびマイクロコズムで観察され、その頻度は14日間のnon-growth conditionのmicrocosm実験において10^<-10>から10^<-11>の範囲であった。 以上のように、本研究ではダイズ根粒菌HRS株の遺伝生態的な特徴を明らかにした。
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