研究課題/領域番号 |
10460029
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉村 悦郎 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (10130303)
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研究分担者 |
中西 啓仁 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助手 (80282698)
西澤 直子 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (70156066)
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キーワード | ムラサキヒシャクゴケ / アルミニウム / 細胞壁 / LV-SEM |
研究概要 |
ムラサキヒシャクゴケ(Scapania undulata)は水棲のコケで、中性から酸性の水域に広く分布する。昨年度の検討の結果、このコケには多量のアルミニウムが蓄積されており、その程度は中性水域で生息するコケで顕著であった。本年度は、アルミニウムの存在部位の確認と存在状態を明らかにすることでその蓄積機構の解明を行った。 中性水域から採取したムラサキヒシャクゴケの葉を試料ホルダーに固定し、液体窒素に浸漬し、急速凍結を行った。試料をそのまま、あるいは活断して定真空型の走査電子顕微鏡で観察した。試料の各部位(細胞質、細胞内顆粒、細胞壁)に電子線を当て発生するX線スペクトルを測定した。その結果、細胞壁からかなり強いX線強度が得られ、特に細胞表層よりも細胞と細胞との境界から高強度のX線スペクトルが得られた。ヘマトキシリンによるムラサキヒシャクゴケの染色から細胞壁にアルミニウムの存在が示唆されていたが、ヘマトキシリンは金属に対する選択制が悪く、他の金属でも同様の染色が得られるが、この結果からアルミニウムが細胞壁に局在していることが確認された。 中性水域に生息するムラサキヒシャクゴケの葉を1%SDSを含む50mM MES/NaOH緩衝液(pH6.5)中で粉砕し、遠沈後細胞壁画分を得た。pH2.0から3.0の抽出液中に細胞壁画分を加え、37℃で浸透した。アルミニウムはpH5.0、6.0ではほとんど溶出されないが、pH4.0以下の抽出液では、pHが低いほど多量のアルミニウムが溶出された。鉄、マンガンでもほぼ同様の傾向が見られ、これらの金属は同様の機構によって、細胞壁成分に結合しているものと推察された。アルミニウムのヘマトキシリン染色ではポリアニオンの存在が必要で、これを介した三元錯体の形成が重要と言われている。したがって、このコケの細胞壁にはペクチン様の酸性多糖が存在しているものと考えられた。
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