研究概要 |
大腸菌のF1-ATPase活性欠損株の細胞生化学的変化の検出:昨年度確立した蛍光プローブ法によって膜ポテンシャルを測定した.その結果,F1-ATPase欠損変異株と野生株両株とも細胞膜は正常で,呼吸鎖フラックスの増大によるプロトン駆動力の過剰形成を想定することは妥当であると考えられた.両株の細胞内ATPとADP含量をルシフェラーゼ法で測定した.その結果,両株ともATP/ADP比には大差が認められなかった.一方,発現タンパク質のプロテオーム変動解析を行い,2次元電気泳動により約50個のタンパク質スポットに差異を認めた.従って本エネルギー代謝変異により,細胞成分が質的に作り変えられていることが明らかになった. コリネ型グルタミン酸生産菌Corynebacterium glutamicumのエネルギー代謝変異株の解析:昨年度クローニングしたH^+-ATPaseの全遺伝子を大腸菌-コリネバクテリウムシャトルベクターに連結し,C.glutamicum野生株の形質転換を行った.その結果,形質転換体のH^+-ATPase活性は野生株の約2.5倍に上昇した.既得のC.glutamicumのH^+-ATPase活性下変異株の膜電位を測定低し,変異株では野生株に比べて膜電位が上昇していることが明らかになった. 乳酸菌Lactococcus lactis C2株のATPase遺伝子のクローニングと酸性条件下での発現製御の解析:酸性条件でのATPase活性上昇の機構を明らかにするために,PCR法を用いてATPaseオペロン上流のプロモーター部位をクローニングした.現在この断片をレポーター遺伝子の上流に配置し,酸性条件でのプロモーター活性の増大を検討するための準備をしている.一方,連続培養により親株の生育可能最低pH3.9を0.2下回るpH3.7まで生育できる酸性耐性株を取得した.この株は細胞内pHが親株に比べて酸性条件下で高く維持されることが示され,これが酸性耐性の理由と考えられた.しかしATPase活性は両株に差がなく,酸性条件下での細胞内pH維持機構については更なる検討が必要である.
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