タバコ培養細胞のオルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子は、タンパク質合成阻害下でもメチルジャスモン酸(MeJA)による転写活性化を受ける。タバコのイントロンを持たないODC核遺伝子を単離し、そのプロモーターとGUSとの融合遺伝子(ODC:GUS)が形質転換細胞で内在性ODC遺伝子と同時にMeJAによる迅速な誘導を受けることを明らかにした。ODC:GUSはサリチル酸(SA)による誘導を受けないが、MeJA誘導レベルは低濃度のSAやアスピリンによって約2倍に増加し、傷害葉でのMeJA誘導性遺伝子発現と異なりSAによる抑制系が作動していない。種々の欠失変異の解析から、ODCプロモーターの-1457から-1351までと-943から-746までの配列がMeJAによる誘導に重要であることが分かった。これらの領域には、二次応答性遺伝子のMeJA応答性シス配列と推定されるG-boxなどの配列は含まれず、異なる誘導機構が働いていると推定された。細胞の核抽出液を用いたゲルシフトアッセイを行い、ODCプロモーターのMeJA応答に関わる107bpと198bpの配列に特異的な結合活性を検出して、その活性は細胞のMeJA処理に関わらず存在することを見出した。培養細胞は常に若干の傷害ストレス状態にあり、ODC遺伝子のMeJA誘導性発現に正に作用する因子を過剰発現すると、MeJA刺激のない状態でも発現レベルが増加する可能性がある。ODCプロモーターにビアラフォス耐性遺伝子を繋ぎ、ODC:GUSと共にタバコ培養細胞に導入すると、MeJA依存的にビアラフォス耐性を獲得してGUS活性を発現した。この形質転換細胞に更にT-DNA末端にタンデムエンハンサー配列を持つアグロバクテリウムを感染させ、ビアラフォス耐性カルスを選別した。更に、GUS活性を発現するものを選抜し、MeJAなしにODCプロモーター下流のビアラフォス耐性とGUSレポーターの双方が発現している約10ラインを得た。この2つのラインでは、ODCを含む2種のMeJA一次応答性mRNAが非形質転換細胞に比べて顕著に高くなっていたが、MeJA二次応答性mRNAに変化はなかった。
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