研究概要 |
本研究では、化学発がんで問題となる大腸での希釈や接触とは無関係な発がん因子である、放射線による新しい大腸がんモデルを確立し、これらを従来の化学発がんモデルのものと比較すること、また、これらのモデルを使って種々の性質の異なる食物繊維用いることにより、大腸がんの発生、増殖の各ステージへの食物繊維の作用と食物繊維の物理化学的性質の関係を明確にし、その結果をもとに新たな高機能性食物繊維をデザインしようとするものであった。以下のような成果が得られた。すなわち、 1,新しい大腸がんモデルとして、放射線による大腸がん作成の条件をラットで検討し、低レベルのγ線(^<60>Co)を下腹部に限定して反復照射することにより、大腸がんの前段階である多重異常クリプトを大腸粘膜に形成させることに、世界で初めて成功 2,放射線傷害による大腸がん前がん病変の形成は、化学発がん剤に比べると遙かに少ないが、悪性腫瘍へのリスクの高い多重異常クリプトが多く発生する。 3,発酵性の高い不溶性食物繊維の摂取は、アポトーシス抑制下では、大腸がん前がん病変の形成を促進する。 4,発酵性の高い不溶性食物繊維の摂取は、粘膜免疫系(Natural killer活性)の抑制下でも、大腸がん前がん病変の形成を抑制する。 5,発酵性の低い水溶性食物繊維の摂取は、前投与においてのみ、大腸がん前がん病変の形成を抑制する。 6,大腸発酵産物である酪酸は、化学発ガン剤による大腸がん前がん病変の形成を抑制する。in vivoで酪酸の抑制作用を示した初めての報告である。 本研究では放射線という環境因子によっても大腸がん前がん病変が形成され、その形成に関して、いくつかの興味ある性質が示された。また、食物繊維の大腸がん前がん病変への作用も、その種類によって明らかに異なることも示された。
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