動物のタンパク質合成の制御は、転写段階と翻訳段階に分けて考えることができる。本研究では、それぞれの段階でどのような制御が行われているかについて、タンパク質合成・分解が大きな影響を受ける条件において解析した。翻訳段階については、翻訳開始因子の活性制御が主たる機構であると考えられている。なかでも、eIF-4Eとよばれる因子は、mRNAと結合し、翻訳開始複合体を形成する上で重要な因子で、この因子には特異的に結合するeIF-4E結合タンパク質(以下4EBPとする)とよばれる因子があり、この4EBPはリン酸化されるとeIF-4Eとの結合活性を失い、翻訳開始が促進されるとされている。本研究でも、組織のタンパク質合成が抑制される条件下、例えば実験的糖尿病、タンパク質欠乏状態、絶食状態などで、4EBPとeIF-4Eとの結合量が増加し、翻訳活性が抑制される可能性が高いことを証明している。さらに、このような条件下ではeIF-4Eや4EBPのmRNA量に変動がないかを、肝臓および骨格筋で解析し、eIF-4Eについては、そのmRNA量は比較的安定しているのに対して、4EBPのmRNA量は実験的糖尿病、タンパク質欠乏状態、絶食状態などで顕著に増加することを証明した。 一方、転写段階での調節に関しては、やはり上述のような組織のタンパク質合成活性が抑制される条件下でmRNA量が顕著に増加してくるインスリン様成長因子結合タンパク質-1(以下IGFBP-1)に注目し、このタンパク質のmRNAが、食事のタンパク質欠乏に応答して増加してくる機構を解析した。その結果、IGFBP-1遺伝子の5'上流領域に、食事タンパク質に応答して特別の転写調節因子が結合することを証明する事に成功した。現在、この結果について、論文を作製中で、さらにその因子の同定に精力を注いでいる。
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