研究概要 |
昨年度の報告で、動物のタンパク質代謝に重要な役割を果たすホルモンであるインスリン様成長因子-I(以下IGF-I)と、このホルモンの活性を制御する因子の一つであるインスリン様成長因子結合タンパク質-1(以下IGFBP-1)の遺伝子発現を、食餌とホルモンがどのように制御するかについて、その分子機構の解析を進め、IGFBP-1遺伝子の転写開始点の5'-上流領域に、食餌のアミノ酸に応答して遺伝子転写を調節する領域(以下Amino Acid Responsive Element,AAREと略)を同定したことを報告した。本年度は、この領域に結合する因子、すなわち転写調節因子と考えられるタンパク質が、この領域にどのように結合するのか、またその因子はどのようなタンパク質であるのか、について解析を行った。 AAREの塩基配列をもつプローブ(AAREプローブ)を調製し、標識した。また、タンパク質栄養状態のよいラットとタンパク質欠乏状態のラットの肝臓の核からタンパク質を抽出し、AAREプローブとの結合状態をgel mobility shift assay法により解析した。その結果、タンパク質欠乏ラットから得た核抽出液中には、AAREプローブに特徴的に結合するタンパク質が存在することを発見した。このタンパク質は、結合する塩基配列の特徴および抗体との反応性から判断して、未知のタンパク質であると考えらた。 以上の結果は、栄養条件が悪くなると、肝臓の核ではIGFBP-1遺伝子の転写を制御する転写調節因子の合成、もしくは活性化が起こり、その結果IGFBP-1の転写が促進されて、その合成が亢進し、血中のIGFBP-1濃度が上昇して、それがIGF-Iの活性を抑制して体タンパク質の合成が低下する、という一つの機構があることを意味している。
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