動物のタンパク質代謝は、主に食餌とホルモンによって巧妙に調節されている。栄養価の高いタンパク質を十分摂取した場合やインスリンが十分作用する場合などは、動物が食餌のタンパク質をよく同化するが、グルココルチコイドの分泌の多い場合などは、タンパク質代謝は異化に傾くことが知られている。これらの条件下で、組織でのタンパク質代謝がどのような影響を受けるかを明らかにしようとしたのが本研究である。 筆者らは、すでに動物がタンパク質同化の状態にあるか異化の状態にあるかを、血中のインスリン様成長因子-I(以下IGF-I)の濃度がよく反映すること、また、例外的に反映しない場合でも、インスリン様成長因子結合タンパク質(以下IGFBP)の濃度の変化を考慮すると、動物のタンパク質代謝の状態をよく把握できることを示してきた。特に、IGFBP-1とよばれるタンパク質は、動物のタンパク質代謝が異化に傾いた場合に著しく血中濃度が上昇することを示した。本研究の成果のもつとも重要な点は、タンパク質代謝が異化に傾いた場合の、このIGFBP-1の血中濃度の上昇の分子機構を明らかにしたことにある。この濃度上昇は、主に肝臓におけるIGFBP-1遺伝子の転写の亢進によって説明できるが、本研究で、この転写亢進に関与すると考えられる遺伝子の5'上流領域を特定し、そこへの、HNF-3、USF等の結合が、転写亢進に重要であることを証明した。この結果、および関連した成果により、動物のタンパク質代謝が異化に傾いた場合の動物の内分泌状態の変化を、分子レベルで説明することが可能となった。
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