本研究では、リゾチームをモデル蛋白質として用い、酵母発現系で意図的に翻訳後修飾を利用して、グリコシル化、リポフィル化、リン酸化のための分子設計を行い、耐熱性、乳化性などの物性機能改変、抗菌性などの生理機能の改変、アレルゲン性の低減化などを試み、食品受容性及び健康保全性を備えた安全な食品蛋白質の開発を図るための分子設計基盤を確立することを目的とした。そのために、10年度は酵母発現系により、糖鎖長の異なるオリゴまたはポリマンノシル化リゾチームを作製し、糖鎖導入によるリゾチームならびに高機能化変異体を大量発現を試みた。この結果、糖鎖認識配列Asn-X-Thr/Serを49位または19位に糖鎖が結合するように、デザインされたリゾチームは極めて熱安定型であり、酵母での分泌量も野生型の5倍量多いグリコシル化リゾチームを発現した。また、リゾチームのC末端にPhe-Phe-Val-Ala-Proのペンタペプチドを融合するようにデザインし、抗菌性をグラム陰性菌に抗菌性を示すようにした抗菌性強化リゾチームもグリコシル化により多量に発現させることに成功した。さらに、リゾチームのアレルゲン性低減化に糖鎖付加が効果があることも明らかにした。すなわち、野生型リゾチームとグリコシル化リゾチームを腹腔内投与により、生じるリゾチームIgEを比較検討したところ、グリコシル化により、IgEの産生量は著しく抑制されることが示された。以上の結果から、蛋白質の翻訳後修飾を利用したグリコシル化は蛋白質の機能を改変するのに有効な手段であることが示された。
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